■ winter snow

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 「それでは、この件はこれで商談成立ということで。」

 ビブラートの聞いた若い青年の声が高級感のある部屋に響いた。
窓から遠くを眺めるとすぐ近くに海岸線が見える高層階の一室。
海岸沿いの埋め立て地高級ビルが立ち並ぶこの一角で目立つこのビルに克哉は御堂ともに新しいMGNのプロジェクトの商談に訪れていた。

 キクチからMGNに移ってから数ヶ月、やかなキクチ8課と違い
めまぐるしく毎日が仕事で追われるMGNで
克哉は
御堂の右腕としての地位を確立していた。
ほんの数ヶ月前は毎日が売れない商品片手に小さな薬局やスーパーを
ひたすらある行き続けた生活から一編した克哉だった。
キクチからMGNに移り慣れない大企業とのやり取りも
なんとか最近は様になってきたような気がする。

 「よかったですね、御堂さん。これで新たな企画へ一歩前進です。」

克哉はほっとした気持ちで御堂に笑いかけながら話しかけた。

 「あぁ、でもまだ始まったばかりだ。気を抜くなよ佐伯君。」

叱咤の言葉とは裏腹に、大手企業を落とした御堂の顔は晴々として
嬉しそうだ。
克哉もはい、と微笑むと帰社の準備をして部屋を出た。

 2人で並んで会議室を出てエレベーターの到着を待つ。
到着したエレベーターは硝子張りで辺りの新たな開発地域に
なっている海辺の埋め立て地を眺めることが出来た。

 冬の夕暮れは早い。赤々とした夕日が照っていた町も
すっかり
藍色のカーテンに包まれている。
様々な色の灯かりは
冬の風にふるふると揺れより一層輝いて見えた。
克哉はすっかりその様子に目を奪われてじっと目が離せなくなり、
窓の遠くに心が奪われていく。

 あの日、あの時
自分がこんな大手企業と渡り合うような人間に
なるとは思わなかった。いつまでも、同じ毎日が続くと思っていた。
あの晩の踏み出した一歩から
まさかこんなにも世界が変わるなんて
思わなかった。そして、なにより自分に好きな人が出来て、
こうやって仕事であっても一緒にいられるなんて思わなかった。

 「佐伯君、今夜の予定は何も入ってないだろう?」

隣で黙っていた御堂が突然口をひらいた。
イルミネーションに目を奪われていた克哉はハッとして振り向いた。

 「っ・・!はい!特に予定は・・・帰社後、何もなければ
  帰宅してもいいことになっています・・・が・・・。」

 「そうか。」

長かったエレベーターが1Fにつくと御堂は話が途中のまま早足で
エレベーターを降り
受付に挨拶をすましビルを出て行った。
遅れないように克哉もあわてて外へ向かう。
入り口を出ると御堂は携帯電話を片手になにやら話している。
追いかけてきた克哉を目に留めるとニッと口元だけで笑いかけ、
そして電話を切る。

 「佐伯、今日はこのまま直帰していいように会社に連絡しておいた。
 この後はこのまま私に付き合ってもらおう。」

 「は・・・?」

克哉は突然の出来事に目を丸くしながら呆然としている。

 「今夜くらい、一緒にプライベートでゆっくり過ごしたいとは
  思わないか?
すぐ側にいいホテルがある。系列会社だ、
 
 レストランも部屋もすぐ取れるはずだ。問題はないだろう?
  今日の仕事の景気づけとでもしようか、克哉。」

そういうと、御堂は走ってきたタクシーを捕まえて
克哉を車内へ促すとホテルへと向かうように運転手へ声をかけた。

 「あ・・・・で、でもオレそんなにお金ないんで・・・っ。」

ついそんなことを気にしてしまう克哉だったが、御堂はクッと笑って
そんな事君が気にする必要はない、と財布から
ゴールドカードをチラリと見せた。

 海岸沿いの道に植えられた常緑樹は様々な色のイルミネーションに
飾られ華やいでいる。師走の町はクリスマス一色に彩られ
平日なのにも関わらず、カップルが歩道を歩いていく。
高層ビル群から抜け出た先に見えてきたのは
高級感あふれるホテルだった。
今までの経験上、
克哉はホテルの部屋でのルームサービスでの夕飯でだらだらと
そのままベッドに連れて行かれるんだろうと思っていたのだが、
ホテルに着くと御堂は克哉をつれて慣れた様子で
フランス料理のレストランへ向かった。

 夢見るような夕食だった。

スマートなウェイターがシャンパンを運んできて始まったディナーは
すばらしく、
普段の克哉なら絶対に食べることのない、
サーモンやキャビアで飾られた前菜に、うっとりするような
クリームポタージュ、子牛のフィレに舌平目のムニエルと続き、
デザートの赤ワインのシャーベットまで残さず平らげた。
 細いシャンパングラスのような入れ物に飾られたデザートは
渋くてほの甘く、ともに出されたワインも手伝ってか
克哉の頬をほんのり赤く染めた。

 「ご馳走様でした!本当に美味しいディナーでした。
  御堂さんありがとうございます。」

 克哉は酔いも手伝ってかにこやかに笑いながら御堂に御礼を告げた。御堂も微笑み返しながら克哉を見る。

 「君に喜んでもらえてよかった。さて今度は私が君から貰う番だ。」

 「え・・・?」

一瞬何のことかわからなかった克哉だが、イジワルそうに微笑む御堂をみて、それが何のことをさすのかすぐに気づいた。

 「あの・・・え・・・っと・・・・。」

酔った顔をさらに赤くさせながら克哉は今だ白い皿の残された
テーブルを見るように俯いた。

「そんな顔をされては困るな。今すぐ欲しくなってしまうだろう?

 それとも今夜は嫌だとでも?・・・・克哉?」

最後の言葉はたっぷりと甘さを含んだトーンで御堂は克哉に告げる。

 「・・・嫌・・・じゃない・・・です。」

 そして2人はホテルのレストランを出ると
高層階にある部屋へと向かった。
部屋へ向かうまで克哉は
これから起こるだろう出来事に照れを隠せなくなり
御堂に一言も話しかけられず終始無言のままだった。

 

 「孝典さん・・・電気・・・も・・消してください。」

消え入りそうな声で克哉は御堂に囁いた。両手は御堂に捕まえられたままベッドの上に押し倒され、羽織っていたバスローブの胸元は
開かれつややかな肌が煌々と照らすランプに晒されていた。

 「もう少し眺めていてもいいだろう?こんなに艶めいて誘うように
  果実
を実らせて。」

 「やっ!うっ・・・・。」

 御堂は視姦されて、膨らんだ胸の突起に舌を這わせた。
敏感な部分に触れるたび
克哉はびくびくと震える。

 「お・・・お願いですからっ、電気消してくださいっ。孝典さん」

自分の痴態が明るい場所で晒される羞恥に耐えられなくなった克哉は泣きそうな顔で御堂に懇願する、がそんな顔は御堂を煽るだけだと
いうことに本人は気づきもしない。

 「まったく・・・そんな顔をするともっと苛めたくなるだろう?
 がこれ以上苛めて君を泣かせてしまうのも勿体ないからな・・・。」

そういうとそっとベッドサイドの灯かりを残して電気を消す。
柔らかなルームランプに照らされ、潤んだ目をした克哉はしなやかで
妖しい色気がする。そんな克哉も御堂の
少し乱れた髪がつくる影の中で色っぽく見つめる様子に目を奪われていた。

 「孝典・・・・さん。」

克哉は戒められていた両手は開放され、そのまま愛しい人の身体に
絡めていく。
ほのかにまだ酔いのさめない身体はゆるやかに火照って、御堂にその熱を伝えていった。

 「君は、もう熱いな。ここも、そこも、全て熱い。」

 御堂は克哉のやわらかい肌のあちらこちらに口づけながら、
なめらかな肌に手を這わせた。
黄橙色をしたランプは薄いシーツの
乱れた皺に濃い茶の影をつくる。御堂に翻弄される克哉の体が
しなうたびその影はいくつも形をかえていった。
いつの間にかしっかり閉じていた両足も淫らに開いて
恥かしい部分を攻め立てられれば影とともにベッドが軋む。
男同士の情事に慣れた身体は快楽を求めてさらに淫らになっていった。

 本来なら受け入れられるはずもない場所で何本もの指を咥え
その動きとともに克哉は身体を揺らす。
恥かしさも何もかも、御堂の前では薄れてしまう。
自分を求める欲情した瞳で捕らえられてしまえば
克哉に抗うことはできなかった。

 「はぁっ・・み・・孝典さ・・・も・・ぅ・・・。」

 すっかり息の上がった克哉は上ずった声で御堂に縋る。
その姿が御堂の欲にさらに火をつけた。

 「おや・・もう入れて欲しいのか?そうだろうな・・・
 
こんなに私の指を飲み込んでもっとと欲しがっているからな。」

御堂はさらに克哉を羞恥に追い込むように
耳元で口付けるように囁いた。

 「やめてください・・恥かしい・・からっ。
  お願いだから・・・もう・・・。」

羞恥と快楽とで潤んだ克哉の目にはふるりと涙があふれている。
御堂はそれをすくうようにそっと目元に口付けた。

 「何度もいっているだろう、君がそんな顔をするからだ。
  だがそんな君が欲しい。」

ニッと御堂は笑いかけると克哉の窄みから指を引き抜き
猛った自分の雄あてがった。
克哉は一瞬ビクリと震えたが
背に両腕を絡めるとゆったり微笑んで御堂に口付けた。

答えるように御堂は克哉に己の全てを埋め込んでいく。

 「うあああっ!孝典っさん・・・!!い・・・ぃ・・・っ。」

克哉は背をそらしながら穿たれるたび御堂に抱きついた腕にぎゅっと
力をこめた。御堂はあやすように頬や首筋に口付けながら
克哉を翻弄していく。

 「克哉・・・もっと私を欲しがれ。もっと私の名を呼んで、
  もっと声
を聞かせてくれ。」

御堂も、熱に浮かされたように欲に掠れた声で克哉の名を呼ぶ。

 「孝典さんっ、孝典さんっ。好き・・・だからもっと・・
  
お願いっ。」

揺らされる身体に酔う克哉も御堂に答える。
そのたび強く中を乱され克哉は喘いだ。

 「克哉・・・愛してる。」

御堂は乾いた身体に何かを求めるように克哉に口付ける。
何度も角度を変えながら
舌を絡め、離れてはまた求める。
そして何度かの口付けのあと一際強く克哉の身体を揺すった。

 「ああっ!!」

その言葉が合図のように、克哉は奥を何度も求めるように穿たれながら高ぶった前を刺激され絶頂を迎えた。
同じくして御堂も克哉の中に性を放った。

 

 

 濃紺の天蓋が空を埋め尽くす。
着飾ったドレスのように、街のイルミネーションが
宝石のごとく輝いていた。
窓の淵はうっすらと曇っているのは部屋との温度差のせいだ。

 「明日の出勤は遅くしなくてはいけないな。」

御堂はクスリと笑って横でぐったりとしている克哉の髪を
ゆっくりと梳いた。

 「すいません・・・。」

克哉のせいではないのに、ついしゅんとしてしまう姿に御堂は
さらに笑いながら
君のせいではないだろう?といって
軽く額にキスをした。
そんな事ですら頬を染める克哉を愛しく思いながらそっと克哉を
自分のほうへ引き寄せた。
腕の中の克哉は何かを期待するような目で御堂を見つめている。
そう、御堂からの一言を待っているのだろう。

 自分を好きだと、愛しているというその一言を。

 御堂は一つ呼吸をするとゆっくりと克哉を抱きしめた。

 「愛している、克哉。」

 

 静まり返った深夜

いつの間にか、窓の外には白く羽毛のような雪が舞い降りてきていた。

それが今年初めての雪となった。

        

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(2007/12/26 up)


 



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